2020/9/30 水曜日

ドクターハートのつぶやき(67)

Filed under: プライベート — yo @ 14:38:34

新しい不整脈治療ガイドライン2020が歩き始めました

福岡医療専門学校 顧問  桑木絅一(循環器専門医)

不整脈治療ガイドラインが改定され、臨床応用されています。
その中から、最も身近な不整脈である心房細動に関連することについて、肝心なところを拾って紹介しましょう。
 今回の改定では、心房細動に限らず、治療の目的が患者さんの「QOL」を第一に考慮しようという方向にシフトしました。この考え方から、心房細動の治療薬として、それまでは治療薬のスタンダードであった「ワルファリン」に代わって、最近、抗血栓治療薬として、広く用いられるようになってきた、DOAC(direct oral anticoagulants)がいわば、市民権を得ました。このグループの薬剤は、ワルファリンと異なり、薬物の効きぐわいや血液中の濃度などのモニターが必須ではなく、「有効である、有害ではない、」と信じて、服用しなさい、ということになります。これまでの使用経験の蓄積から、そこまで言い切ることが出来るようになったということです。医療に現場としては、安心して、新しいGLを使うことが出来、心房細動による血栓予防に躊躇なく使用することが可能となりました。

2020/8/28 金曜日

ドクターハートのつぶやき(66)

Filed under: 未分類, プライベート — yo @ 10:10:20

新タイプの心不全治療薬(イバブラジン)
心拍数は落とすが、心収縮機能は落とさない

福岡医療専門学校 顧問  桑木絅一(循環器専門医)

前回は、心不全治療薬として最もポピュラーな利尿薬について、最近になって用いられるようになった利尿物質:バゾプレシンV2受容体阻害薬についてお伝えしました。今回は、心臓の収縮力に影響なく心泊数みを落とすという、「イバブラジン」のご紹介です。
心不全では、末梢循環を保つために、心収縮力を増強、血圧上昇、心泊数増加(頻脈)、などの循環動態の反応が起こります。このうち、頻脈は、時として、不快感を増し、所謂QOL(quality of life)を損ないます。
この不快な頻脈を抑えるためには、これまでは、β遮断薬が用いられてきました。ところが、困ったことに、これは、心収縮力を弱めてしまいます。これは、心不全にとって、不利なことです。
新しく登場した、イバブラジンは、洞結節(心拍数を制御)のみを抑制(すなわち心拍数を少なくし)、収縮心筋には影響しません。つまり、心収縮力に影響することなく、心拍数だけを少なくすることが出来るというわけです。
実は、「心収縮力を弱くすることなく、心拍数だけを減ずる」という命題は、循環器医が長年取り組んできて、いまだ未解決の大きなテーマでもあります。
市場に出てまだ日が浅く、解決すべき問題も残っていますが、イバブラジンはその解決に大きく寄与するであろうという予感がします。

2019/11/25 月曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 11:40:29

カテーテルを介した新しい弁膜症の治療:タビ

福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

最近の、特に高齢者の弁膜症は、動脈硬化症を原因とした「大動脈弁狭窄症」、や心不全が繰り返された結果生じた心拡大に基づく「僧帽弁閉鎖不全症」などが代表的です。

これらの病態が進行して心不全の状態に陥った時、内科的治療だけで限界となることがあります。この時は、開胸下に、「大動脈弁置換術」や「僧帽弁置換術」など、外科的処置により機能回復を図ることになります。しかし、これら外科的治療は、大きなリスクを伴うところから、、高齢であるゆえの体力的なこと、持ち合わせている合併症などのために、選択できないこともあります。

このとき、より低侵襲的な、「タビ」の出番です。

タビ(TAVI)とは、Transcatheter Aortic Valve Implantation 経カテーテル的大動脈弁留置術、文字通り、カテーテルを介して機能不全となった大動脈弁を人工弁と入れ替え、機能回復を図ろうという手術です。

僧房弁に関しても、同様にカテーテルを介した弁置換が可能となり、良い術後成績が得られています。

このような手術に伴う危険性が低い、即ち低侵襲処置は、高齢者や所謂フレイルな病人に対して、治療の範囲が広がり、救いとなっています。

2019/9/24 火曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 14:05:40

アブレーションablation 治療

福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

頻拍性不整脈(脈の乱れあり・なしにかかわらず、脈拍数100/分以上)には、心房細動、心房粗動、上室性頻拍症、心室頻拍、心室細動、などがあります。それ自体は無症候、無害性のものもありますが、不快な自覚症状を伴う、心不全や血栓形成、生命を脅かす危険性が大きい、など、治療を要するものもあります。

「アブレーション治療ablation」は、そのような不整脈に対する治療方法のひとつです。

各種頻拍症は、心筋のどこかに、その「発生源」や、刺激が伝わってゆく「径路」があります。アブレーション治療ablationは、非開胸下で、特殊な電極カテーテルを心臓に挿入し、それを介して高周波通電により、不整脈の発生源や、径路を、焼灼、破壊して、頻拍の発生を根絶する、あるいは、その伝道をブロックするというものです。

頻拍の発生源や、伝導路の確定には専門知識、特殊技能が必要ですが、治療に成功すれば、長期間の抗不整脈薬の服用の必要はなく、快適なQuality of Life:QOLが得られます。

頻拍性不整脈の治療法のひとつとして、選択されることも多くなってきています。

2019/8/21 水曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 11:39:25

心不全は 中枢性睡眠時無呼吸(CSA)を発生させる

福岡医療専門学校   顧問 桑木絅一(循環器専門医)

以前、睡眠時無呼吸症候群SASSleep Apnea Syndrome)は、気道の閉塞が原因であり、高血圧症など循環器疾患のリスクファクターである、ことを解説しました。

(つぶやき(49) 20190215)  

しかし、稀には気道の閉塞がないにも関わらず睡眠時無呼吸症が発現することがあります。即ち、心不全が原因で発現する、中枢性睡眠時無呼吸(CSA:Central Sleep Apnea )です。

心不全により、肺うっ血が発生します。これは、夜間 睡眠中に重症化します。肺うっ血が増強すると、呼吸は深く、大きくなります。(過呼吸) その結果、多くの酸素も取り込まれますが、同時に炭酸ガスは排出され、血中の炭酸ガス濃度は低下します。因みに、血中炭酸ガスは呼吸中枢を刺激して呼吸を早く、深くする働きがあります。過呼吸の結果、血中の炭酸ガス濃度が低下すると、呼吸は抑制されます。さらに、心不全状態では、交感神経緊張状態にあり、このため、呼吸抑制反応は増強され、呼吸停止、即ち、無呼吸状態に至ることがあります。即ち、CSA 中枢性無呼吸です。なお、呼吸停止中に血中の炭酸ガス濃度は上昇し、呼吸中枢を刺激して、大きな呼吸とともに、呼吸は再開されます。

通常のSASに対しては、CPAP(シーパップ:持続気道陽圧)など、呼吸補助治療法が開発され、一定の効果が認められていますが、CSAには種々呼吸補助手段の研究は進められていますが、未だこれぞという成果がありません。原因となっている心不全の治療に専念するしか治療法がないのが現状です。

2019/7/17 水曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 8:53:20

植込み型人工心臓の実用化は近い

福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

人工心臓は、心臓のポンプ機能を代替する人工臓器です。現在は、まだ大型で、電線や点滴などのラインも多く、体内に植え込むことは出来ません。据え付け型で、一時的に心臓移植につなぐ役目(bridge use)として用いられています。

そんななか、さらなる発展をめざし、体内に植え込んで心臓移植に代わって生涯使用(destination therapy

を可能にしようという試みも進められています。本日は、その現状についてご紹介しましょう。

人工心臓は、体内の限られたスペースに植え込まれます。そのためには、小さく、軽量、且つ体内の組織と「なじむ」ものでなければなりません。また、皮膚を貫通するするラインを無くし、密閉空間を確保、感染予防を完璧にします。一度植え込んだ機器には、半永久的に留置される耐久性が求められます。

また、その中に収納されなければならない、必須のパーツがあります。血液循環のための特殊な小型ポンプが必要です。その動力(モーター)や弁の機能も必要です。そこからの熱も処理しなければなりません。システムの駆動のための電力の供給や、情報の取り出し、処理、プログラムの変更、などには体外からの電磁波誘導や赤外線通信などの利用が考えられています。

現在、人工臓器が植え込まれた動物(仔牛)では、最長70日間の生存例があると報告されています。(国立循環器病センター)。人への応用には、まだ少し時間はかかるとしても、さほど遠くはないと思われます。

2019/6/18 火曜日

ドクターハートのつぶやき(53)

Filed under: プライベート — yo @ 14:07:29

植込み型ループレコーダー(ILR

福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

 

 

不整脈、特に失神発作と関連する不整脈は、可及的速やかに診断し、

重大事故の予防に努めなければなりません。

不整脈の診断には、心電図検査が必須ですが、危険な不整脈が常に存在するわけではありません。

ホルター心電図検査は、不整脈の診断ツールとして、広く用いられています。これは、長時間にわたり(通常24時間)心電図記録を行い、それをメモリーチップに保存、後で症状出現のタイミングと突合せて、症状が不整脈と関連するかどうか、検討するものです。しかし、検査中にイベントが出現しないことも多く、より長時間のモニターが望まれていました。

今回紹介する「植込み型ループレコーダーILR:implantable loop recorderは、この要望を叶えるものと期待され、臨床の現場に普及してきている『新星』です。

これは、親指大の機器で、左前胸部に小切開を加え、鈍的に皮下に留置するもので、リード線もありません。心電図を約3年間発信し続け、インターネットを介して、診察室などの基地で、リアルタイムに心電図を受信することができます。

すなわち、危険な不整脈を感知した時、迅速に対応出来ることになります。また、この間のホルター機能も持ち合わせることになります。最近、この機器による診断法は、保険適応となりましたので、不整脈の診断、ことに、失神の原因として、心室細動や高度ブロックなどの不整脈が考えられるとき、本機は、必要不可欠なものとなるでしょう。

2019/5/30 木曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 13:31:14

高血圧性心不全                    福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

 

高血圧症では、高い血圧を維持するために、強力な心収縮力の維持が必要です。そこで、収縮能低下による心不全にはなり難いと考えられます。しかし、現実には心不全となった症例を多く経験します。心不全をきたす原因が収縮能低下以外にもあるということです。今回は、その心不全に至るプロセスついて考えてみましょう。 高血圧症が、心不全に至るには、主として二つの経路があります。

一つは、肥大した心筋を栄養する血管に動脈硬化が進み、心筋への血液供給が不十分となり、心筋の虚血性変化や心筋間質の繊維化などが起こり、その結果心収縮能が低下するため。

もう一つは、心筋肥大のため左心室がしなやかに拡張できなくなり(拡張能障害)、左心室内圧が高いまま心房から血液が流入することになり、左室の上流にあたる左心房圧、肺静脈圧、肺血管床の圧上昇につながり、その結果、肺うっ血、右心不全をきたす経路です。

弾性ゴムにたとえて云えば、収縮能障害はゴムが伸び切ってよく縮むことができなくなった状態、拡張能障害はゴムが分厚く、硬く、しなやかに伸ばせない状態、と考えればわかりやすいでしょう。

両者は、臨床所見や、心エコー検査などから鑑別可能です

心不全は、その起こり方によって治療戦略が異なります。高血圧治療中にその兆候になるべく早く気付き、早めに手を打つよう配慮します。

2019/3/20 水曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 12:16:24

脳卒中・循環器病対策基本法が成立しました

                                                        福岡医療専門学校  顧問 桑木絅一(循環器専門医)

昨年12月に、脳卒中・循環器病対策基本法(正式には、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係わる対策に関する基本法」)が、衆議院本会議にて全会一致で可決、成立しました。

この法律の基本理念は、

生活習慣の改善などにより循環器病の予防を推進する、

循環器病患者に対して迅速な搬送と適切な治療を行える医療体制を整備する、

医療保険者に対しては、行政が行う循環器病の予防の普及啓発などの施策に対して、協力を求める、というものです。

脳卒中、心臓病は、日本人の死因の上位を占めており、これを何とかしなければ、という動きは以前からありましたが、国民の意見の集約が得られず、その方策については、実動にはいたっていませんでした。このたび、国もやっと重い腰を上げ、国民を巻き込んでその予防、治療への取り組みを始めた、といったところでしょう。

われわれも、生活習慣病予防につとめる、健診を受診し二次健診も積極的に受ける、など身近で出来るところから、動脈硬化症の予防に配慮し、本法の趣旨を理解し、その活動に参加してみてはいかがでしょうか。

2019/1/17 木曜日

ドクターハートのつぶやき

Filed under: プライベート — yo @ 9:36:40

左心不全と右心不全

福岡医療専門学校   顧問 桑木絅一(循環器専門医)

 

以前に、心不全診療ガイドライン(つぶやき39)をご紹介しましたが、心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気と定義されています。今回は、これをもう少しかみ砕いて、解説します

心臓は、血液を拍出して、それを全身に供給する臓器です。つまり、「ポンプ」です。心臓には、二つのポンプ室があります。全身に血液を送り出す役目の「左心室」と肺に送り出す役目の「右心室」です。

さて、左心室が病気になる(心筋梗塞、心筋症など)と、ポンプ機能失調のため、心拍出量が低下し、全身の臓器に十分な血液の供給が行えなくなります。その結果、息切れ、倦怠感、尿量減少などの左心不全症状が出現します。この段階では、目立った心不全症状とは受け取られないことが多いと思います。

一方、典型的な右心不全を来す右心室の心筋梗塞では、そのポンプ機能が損なわれ、肺への拍出が不十分となります。血液は、右心室に滞り、さらに、その上流に当たる静脈系の血流鬱滞がおこり、静脈圧の上昇、血液水分のシミだし、が起こり、「むくみ」が発現します。つまり、右心不全です。心不全症状として、目立ったものになります。

右心不全を引き起こす病気としては、このほかに、肺梗塞、肺高血圧症などがあります。これらの病気では、右心室の下流である、肺動脈の血管抵抗の増加のため、右室圧が上昇し、その上流の静脈系の鬱滞を来します。

左心不全は、尿量減少、体液貯留などを引き起こし、結果、右心不全を引き起こし、両心不全となります。

いいかえれば、左心不全は、低心拍出量によるもの、右心不全は、静脈系の鬱滞によるもの、と極論できます。

しかし、両心不全を絵に描いたように左心不全、右心不全と分けることは出来ません。心不全〔両心不全〕の成り立ちを考えるとき、左心不全から発展した? 右心不全が起源? と考えることにより、治療方針の決定に役立たせることが出来ます。即ち、左心不全では、心拍出量を増す操作(強心剤投与)、右心不全では、体液量を減らす治療(利用薬投与)といった具合です。

今回は少し長くなってしまいましたが、何度か繰り返し読んで頂き、心不全の成り立ちについて理解を深めて下さい。

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